ECの世界で、いま大きな変化が始まっています。
Klaviyoは自らを「autonomous B2C CRM」と呼ぶようになり、AIエージェントがキャンペーンを組み立てたり、顧客からの問い合わせに答えたり、商品を提案したりと、これまで人が担ってきたマーケティングや接客を自動で実行する方向へ進んでいます。
これは、単に「AIが文章を書いてくれる」という話ではありません。
顧客一人ひとりの購買履歴や行動をもとに、その人に合わせた体験をつくり、さらにその反応を次の接客に活かしていく。
店が、お客様を「覚えている」。
そんなECが、現実になり始めています。
この変化を、世界で一番楽しめるのは、日本の消費者かもしれない。
技術はアメリカで生まれています。
でも、その技術が生み出す「体験」が最も豊かに花開く場所は、別かもしれない。
これは、そんな仮説の話です。
CULTURE 01
機械と楽しく暮らしてきた国
AIについて話すとき、よく「日本人はロボットに親和的だ」と言われます。
確かに、日本にはドラえもんがいて、鉄腕アトムがいて、ロボットが人間の友達や世話焼きとして描かれてきました。
街を見ても、自動販売機が当たり前のように並び、配膳ロボットやセルフレジなど、新しい機械が生活の中に入ってくることにも比較的慣れています。
もちろん、日本人がみなAIを無条件に受け入れるわけではありません。
個人情報や監視への不安もあります。
だから、「日本人はAIが好きだから、AIエージェントも受け入れる」という話ではない。
もっと面白いのは、
日本には、機械を単なる効率化の道具ではなく、生活の中で一緒に使い、楽しむ文化があるのではないか。
ということです。
自動販売機は、その象徴かもしれません。
飲み物を買うための機械だったものが、いまでは食品や花、だし、冷凍食品など、さまざまなものを売っています。
「人間の代わりだから仕方なく使う」のではなく、機械そのものが街の風景になっている。
ロボットも、自動販売機も、家電も、キャラクターも。
日本では長い時間をかけて、機械を生活の中に馴染ませてきました。
だからこそ、次にやってくるAIエージェントも、
「機械に仕事を奪われる」
だけではなく、
「自分のことを分かってくれる機械と暮らす」
という方向に進む可能性があります。
CULTURE 02
「覚えていてくれるサービス」に、私たちはもう慣れている
「覚えていてくれる店」というと、少し昔の商いを思い浮かべるかもしれません。
旅館の女将が常連客の好みを覚えていたり、馴染みの店で「いつもの」が通じたり。
かつての御用聞きも、お客様の暮らしを覚え、必要になりそうなものを先回りして届けていました。
でも、実は私たちはもう、もっと身近なところで「覚えていてくれるサービス」を使っています。
Spotifyは、これまで聴いてきた曲や好みをもとに、自分に合ったプレイリストをつくる。
Netflixは、過去に観た作品や視聴傾向から、次に観る作品をすすめてくる。
ECでも、過去に買った商品や閲覧した商品、興味を示した行動をもとに、おすすめが変わっていく。
私たちはすでに、
「サービスが自分の履歴を覚えている」
という体験に慣れています。
そして、ここには面白い境界線があります。
覚えていてくれると嬉しい。
でも、
「覚えています」と言われると、少し怖い。
例えば、
「前にも買っていただきましたよね」
「いつもこれを選ばれていますね」
「そろそろ必要になる頃かと思っていました」
——正直、少し怖くないでしょうか。
覚えていてくれるのは嬉しい。
でも、覚えていることを見せられると、途端に「見られていた」に変わる。
特に「そろそろ必要になる頃かと思っていました」は、購入履歴だけでなく、その人の使うペースまで推測していることを伝えてしまいます。
気遣いのつもりの一言が、監視の証明になってしまう。
だから、現代の優れたサービスは、記憶をそのまま見せません。
Spotifyが、
「あなたは昨日、この曲を3回聴きました」
と毎回言ってくる必要はない。
ただ、
「今日のあなたにおすすめ」
と出てくればいい。
覚えていることは、言葉ではなく体験に現れる。
これは、日本の商いにも通じるところがあります。
昔からの名店では、相手の好みをいちいち説明しません。
前回のことを覚えていても、それを口にするのではなく、自然に次の行動へ反映する。
覚えていることは口にせず、行動にだけ使う。
気配りは、気配を消すから気配りになる。
この塩梅こそが、「覚えていてくれる店」の心地よさなのではないでしょうか。
そして、客の側はたった一言で済みます。
「いつもので!」
この一言が通じる店の心地よさを、私たちは知っています。
記憶は店が披露するものではなく、客が頼れるもの。
自分の履歴を店に預けていて、必要なときには一言で引き出せる。
覚えられていることが、監視ではなく、便利さや心地よさに変わっている状態です。
CULTURE 03
「覚えている」ことを、全員にできるか
ECのAIエージェントがやろうとしていることは、ある意味でこの「御用聞き」のデジタル化です。
- 昨夜カートに入れたままになっている商品について、必要なタイミングで案内する
- 過去の購入履歴から、次に必要になりそうな商品を提案する
- 以前購入した商品に関連する商品を、その人に合わせて紹介する
- しばらく購入がない顧客に、これまでの関係性を踏まえて再訪のきっかけをつくる
- 商品について質問されたとき、過去の購入や現在の状況を踏まえて答える
ひとつひとつは、人間にもできます。
問題は、
全員に続けられるか。
です。
500人のお客様を、担当者が一人ひとり覚えておく。
何を買ったか。
いつ買ったか。
何に興味を持ったか。
どんな接点があったか。
いまどんな状態なのか。
そして、次に何を提案すべきなのか。
これは、人間の記憶だけでは難しい。
自動化とは、作業を減らすことだけではない。
自動化とは、顧客を忘れないことなのかもしれない。
人間が覚えていられない数の顧客を、CRMが覚えておく。
そして、その「記憶」を使って、一人ひとりに合った接客を続ける。
これが、AIエージェント時代のCRMの大きな変化だと私たちは考えています。
REALITY CHECK
「覚えている店」の裏側は、意外と泥臭い
ここまで書くと、AIエージェントが魔法のように見えるかもしれません。
でも、そうではありません。
AIエージェントが「覚えている店」になるためには、まず店側にも準備が必要です。
誰が、
いつ、
何を買って、
何を見て、
どんな反応をして、
いまどんな状態なのか。
この情報がバラバラになっていては、AIは顧客を十分に理解できません。
そして実際には、ここが一番泥臭いところです。
顧客データを整える。
データ同士を正しく紐づける。
イベントや属性を整理する。
必要なタグやセグメントを設計する。
地味で、時間のかかる作業も少なくありません。
でも、この裏側が整っていなければ、「覚えていてくれる店」はつくれない。
AIエージェントは、魔法ではなく、整えられた顧客データの上で初めて力を発揮するものです。
だから必要なのは、まず顧客データの基盤です。
顧客データの基盤 |Shopifyの購買・行動データをCRMに集約する
顧客の記憶 |購入・閲覧・反応などを一人ひとりにつなげていく
AIエージェント |その記憶をもとに、一人ひとりへの接客を実行する
そして、その接客がまた新しいデータを生みます。
つまり、
データを集める。
顧客を覚える。
接客する。
反応を覚える。
また接客する。
この循環そのものが、AIエージェント時代のCRMなのだと思います。
Klaviyoが「autonomous B2C CRM」と呼ぶ方向へ進んでいるのも、まさにこの変化です。
従来のCRMは、顧客データを保存して、人間がそこから判断していました。
これからのCRMは、顧客データをもとに、AIがマーケティングやサービスの実行まで担っていく。
店が「顧客を覚えている」だけではなく、
その記憶を使って、店の代わりに動く。
そこまで来ると、CRMの意味そのものが変わってきます。
CULTURE 04
「覚えている」ことが、売上になる
もちろん、ここでひとつ冷静に考える必要があります。
顧客を覚えていること自体が、売上になるわけではありません。
重要なのは、
覚えていることで、何が変わるのか。
です。
例えば、商材によって「覚えておくべきこと」は違います。
消耗品なら、購入周期が重要かもしれない。
アパレルなら、過去に購入した商品や好み、閲覧行動が重要かもしれない。
高単価商品なら、購入までの検討期間や関心商品が重要かもしれない。
ギフトなら、本人用とは違う購買文脈を覚えておく必要があるかもしれない。
つまり、
「何を覚えると価値があるか」は、商材ごとに違う。
だから、Klaviyoを導入すれば自動的に売上が上がる、という話ではありません。
考えるべきなのは、
その商材では、顧客の何を覚えておくと、売上機会が増えるのか?
という問いです。
例えば、年間1万人の新規顧客がいるECを考えてみます。
仮に2回目購入率が30%から35%になったとすると、2回目を購入する顧客は3,000人から3,500人へ、500人増えることになります。
平均購入単価が5,000円なら、それだけで250万円の購入機会です。
もちろん、これはあくまで考え方を示すための試算です。
実際の数字は、商材、顧客単価、購入頻度、粗利、既存のリピート率などによって大きく変わります。
だから重要なのは、「AIを入れれば何%売上が上がるか」ではありません。
自分たちの顧客の何を覚えておけば、どれだけの購入機会を増やせるのか。
それを、自社の数字で考えることです。
そして、
顧客の状態を覚える
↓
その状態に合わせて接客する
↓
購入・再訪・問い合わせなどの反応が生まれる
↓
その反応もまた覚えておく
という循環ができる。
ここまで来ると、「配信の自動化」とは少し違う世界が見えてきます。
人間が忘れてしまうことで取りこぼしていた顧客を、忘れない。
その結果として、
「2回目の購入が増えた」
「休眠顧客が戻ってきた」
「関連商品の購入が増えた」
「問い合わせから購入につながった」
という変化が生まれる。
そして本当に知りたいのは、
その「覚えている」が、年間いくらの売上になるのか。
自動化の価値は、「何時間作業を減らせたか」だけでは測れない。
「忘れていたことで取りこぼしていた売上を、どれだけ拾えるようになったか」
でも考える必要があります。
CULTURE 05
買い物を「遊び」にできる国
もうひとつ、日本のECには面白い土壌があります。
福袋。
限定商品。
抽選販売。
ポイント。
ランキング。
再入荷通知。
日本の消費者は、買い物そのものを楽しむことに慣れています。
「何を買うか」だけではなく、
「いつ買うか」
「どうやって買うか」
「何が出てくるか」
「次に何があるか」
まで含めて、買い物を体験として楽しむ。
ここにAIエージェントが入ってきたら、どうなるでしょうか。
「私の好みを分かっているAIが、今日は何を薦めてくるんだろう」
「前に買ったものから、どんな商品を見つけてくれるんだろう」
「自分では探さなかったけれど、これは確かに好きかもしれない」
そんな体験です。
AIが一方的に商品を売りつけるのではなく、
自分専用の御用聞きと一緒に買い物を楽しむ。
そんなECがあってもいい。
私たちはすでに、機械に好みを覚えられる体験を日常で楽しんでいます。
Spotifyが選んでくれたプレイリスト。
動画サービスが薦めてくれた作品。
検索履歴から変わっていくおすすめ。
「自分のことを分かってくれている」と感じる瞬間が、すでに生活の中にある。
あとは、それが買い物の場にもやってくるだけなのかもしれません。
SUMMARY
顧客を忘れない店へ
AIエージェント時代のECで、本当に重要なのは「AIを導入すること」ではありません。
重要なのは、
顧客を知ること。
顧客を覚えておくこと。
そして、
その記憶を、次の接客に使うこと。
日本には昔から、「覚えていてくれる店」がありました。
「いつもの」を分かってくれる店。
そろそろ必要になるものを教えてくれる店。
自分の好みを知っている店。
そんな店に通うこと自体が、買い物の楽しさでした。
そして今、私たちはSpotifyやNetflixのようなサービスを通じて、「自分のことを覚えているサービス」と暮らしています。
AIエージェントは、その記憶をさらに一歩進め、「覚えている」だけではなく、「覚えていることを使って動く」存在になる可能性があります。
「覚えていてくれる店」を、すべての顧客に。
AIエージェントとECが最も楽しい形で出会う場所は、日本かもしれない。
技術はアメリカで生まれる。
でも、
「覚えていてくれる店」
という体験を、日本の消費者がどう楽しむのか。
そこには、まだ大きな可能性が残っています。
そして次に考えたいのは、
顧客を忘れないことは、実際にいくらの売上になるのか。
商材によって、答えは違うでしょう。
だからこそ、実際の顧客データを使って、一社一社検証していきたい。
「自動化すると何時間減るか」だけではなく、
「顧客を覚えていられることで、どれだけの売上機会を拾えるか」。
私たちは、これからのECにおけるAI活用を、そこから考えていきたいと思っています。
WEBALACARTE
「覚えていてくれる店」への第一歩を、
一緒に設計します。
WebALaCarteでは、Shopifyストアの設計・開発からKlaviyoの導入・設計・実装まで、AIエージェント時代の土台となる顧客データ基盤の構築をご支援しています。
大切なのは、最初からAIを導入することではありません。
まず、「自分たちのお客様について、何を覚えておくべきなのか?」を考えること。
そして、「その記憶が、どんな顧客体験と売上につながるのか?」を設計すること。
「うちの店では、何を覚えておく価値があるだろう?」
そんなところから、一緒に考えてみませんか。